受益者連続信託とは?
 遺言機能+α
家族信託(民事信託)は、財産の名義(所有権)を受託者に移し、誰のために(受益者)・どう管理運用し・いつ誰に引き継ぐかを契約で定める仕組みです。このうち受益者連続信託は、受益者を「Aさん → Aさんが亡くなったらBさん → Bさんが亡くなったらCさん…」のように連続的に指定できる特別な設計を指します。
これは「将来の受益者変更の道筋」を生前に決めておける信託であり、まさに「一度決めた設計」で相続を段階的につなぐ革新的な仕組みなのです。従来の相続対策とは異なり、生前から運用を開始でき、相続のたびに分け直しをする必要がないという大きな特徴があります。
遺言との決定的な違い
従来の遺言
  • 死亡時に一回限りの承継
  • 遺言執行者は実現後に役目終了
  • 「所有権の移転」のみ指示
  • 次の世代は別途遺言が必要
受益者連続信託
  • 生前から契約発効・継続管理
  • 受託者は契約期間中ずっと管理
  • 「管理・収益・分配」+「受益権交代」
  • 複数世代の承継を一度に設計
遺言は遺言者の死亡時に一回限りの承継を決める道具ですが、受益者連続信託は生前から契約発効させ、受託者が管理を続けながら将来の受益者交代まで含めて連続的に実行します。この違いが、実務における柔軟性と継続性の大きな差を生み出すのです。
具体的な設計例
「自宅・賃貸物件・預金」を家族でつなぐケーススタディ
01
委託者・受託者の設定
父・一郎(委託者)が自宅・賃貸アパート・一部の金融資産を信託財産に設定。長男・太郎(受託者)が家計と不動産管理を担当します。
02
受益者の段階的設計
第一受益者は母・花子。父死亡後は母が受益者となり、母死亡後は長女・恵と次男・健が受益者として按分承継します。
03
分配ルールの明確化
母の生前は賃貸収益を生活費として優先配分。母死亡後はアパートを売却し、代金を恵・健に1/2ずつ分配する「出口条件」を設定。
04
リスク対策の組み込み
受託者・太郎が不在の際は後継受託者を恵に設定。外部専門職(司法書士等)を信託監督人として配置し、暴走防止と適切な監督体制を構築。
受益者連続信託が向いているケース
配偶者の生活安定
配偶者の生活費を確保しつつ、配偶者死亡後は子へ円滑に承継。二次相続まで見据えた長期的な設計が可能です。
特別な配慮が必要な家族
障がいのある子や浪費傾向のある家族の生活を守るため、定期分配・用途限定・監督人配置で「守りの設計」を実現。
事業・不動産の承継
持ち分の集中管理、売却・分配条件の事前設定により、手続の停止を回避し、スムーズな事業承継を実現。
生前からの一体管理
口座・不動産の分散管理をやめ、受託者に窓口を一本化。家族の負担を大幅に軽減する効果があります。
これらのケースでは、従来の遺言では対応しきれない継続的な管理と段階的な承継が必要となり、受益者連続信託の真価が発揮されます。
税務と法律の重要な注意点
課税の帰属関係
賃料などの所得税は受益者側に帰属するのが原則です。設定時点での贈与課税の有無、相続時の課税関係など、具体の設計で結論が変わるため、税理士とセットでの確認が不可欠です。
遺留分への配慮
受益者連続の設計は実質的に贈与・遺贈に近い効果を生むため、遺留分侵害額請求が問題になる可能性があります。家族内の合意形成や代償金の用意、配分バランスの慎重な検討が重要です。
期間・範囲の合理性
極端に長期・多段階の連続指定や不明確な条件は無用な紛争や無効リスクを招きます。「期間・段階・条件はシンプルに」が鉄則となります。
実務先との調整
不動産に抵当権がある場合、区分所有(マンション)の場合、特定の金融商品の扱いなど、実務先の同意・手続が必要なケースがあります。事前の打診が安心につながります。
設計のコツと実務のポイント
効果的な設計のための5つのコツ
1
第一受益者の生活最優先
とくに配偶者が第一受益者の場合は、月次の最低分配額や臨時医療費の優先支出など、生活の安全装置を条項化しましょう。
2
具体的な配分方法まで決める
「子Aに全額」だけでなく、「売却→費用控除後を1/2ずつ」「現物分割不可なら換価分割」のように具体の手順を明文化します。
3
数字の物差しを設定
空室率・修繕累計・利回りなどトリガー条件があると感情論を避けられます(相続・税務との整合に要注意)。
4
後継体制の整備
受託者が動けなくなった時の自動交代、利益相反時の承認ルール、重大不履行の解任フローは必須です。
5
透明性の確保
信託専用口座と帳簿による入出金の可視化で、紛争予防の土台を築きます。

実務のワンポイント
家族信託は魔法の杖ではありませんが、「誰がどこまで決めるか、お金はどう回るか」を先にルール化できるのが最大の強みです。
はじめての方への進め方
現状把握・課題整理
物件情報、修繕履歴、借入有無、規約、現状の問題点と将来の課題を丁寧に整理しましょう。この段階での正確な把握が、適切な設計の基礎となります。
方向性の検討
共有維持なのか?共有解消なのか?それはいつなのか?など、大まかな方向性を家族で話し合い、基本的な合意を形成します。
専門家への相談
様々な選択肢がある中で本当に家族信託が必要なのか、専門家との相談により最終的な方針を決定します。代替案との比較検討も重要です。
まとめ——「意思」を「仕組み」に変える
受益者連続信託は、「この財産で誰をどう守り、最終的にどこへ着地させるか」を、生前から"仕組み"として固定できる画期的な設計です。遺言のように死後一度きりで終わらず、運用→承継→清算までの道筋を一本につなぐ点が最大の違いとなります。
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